国会議員や大企業の幹部も一目置く若者だ。株式会社ESSEOTIA(エッセオティア)の代表取締役・田中颯太氏。高校在籍時に地元・大宮の飲食店経営者にSNSの使い方を指南、18歳でイタリアへ渡って日本人最年少でミシュランの星付きレストランのシェフとなり、帰国後、数学の「多変量回帰分析」などの手法を駆使してSNSコンサルタントに転じた異色の人物だ。
漢字の比率まで解析する「科学的運用」の衝撃
田中氏が提唱するのは、運やセンスに頼らず、GoogleやTikTokのアルゴリズムを徹底的に分析する「科学としての動画マーケティング」だ。実は今まで、この点を突き詰めた動画制作会社は存在しなかった。
「まず、世の中でバズっている動画を収集し、なぜ再生数が伸びたのか、なぜYouTubeやSNSのアルゴリズムが『いいコンテンツ』と判断し、他のユーザーへの『お勧め』に表示してくれたのか、数値化が可能な要素をすべて解析します」
例えばテキスト要素なら、キャプション(説明文)の総文字数、さらには文章内の漢字の比率、視覚要素なら、テロップの位置、フォント、画角の切り替え数(総シーン数)。動画の構成なら、イントロ、ボディ、エンドの時間尺。ほか、ハッシュタグの数、音源の選択、アカウントへのメンションの有無など、分析対象となる変数は多岐にわたる。
「ここで数学の『多変量回帰分析(※)』を用いることで、どの要素がどれだけ動画の再生数に寄与しているか、相関関係を明らかにするのです。こういった分析に従って動画をアップすると、仮に内容は同じであっても、検索上位に出現したり、他のユーザーに『お勧め』として表示されるなどし、再生数が一気に上がります」
※複数の変数(要因)を用い、結果を予測・分析する統計手法。医学における病因分析など、複雑な要因が絡み合うデータの関連性を明らかにする。

段ボール工場に20代の若者が!?
例えば、ある段ボールの工場が「求人を行っているのに人が集まらない」と困っていた。決して悪くないお給料を出し、SNSやホームページで訴えても人は来ない。YouTubeに「働きやすい職場です!」といった動画をアップしても、そもそも観てくれる人がいない。
「そんな状況でご相談を頂きました。その工場の方たちは『段ボールの魅力を訴える動画を載せるのはどうか』と仰っていましたが、それだと、段ボールでアート作品をつくっているような方には観られるでしょうが、段ボールの工場で働きたい方には結びつきません」
田中氏が最初に作ったコンテンツは、なんと、単なる「クイズ」だった。段ボールにも、その工場がある地域にも関係ない、純然たるエンタメコンテンツだった。
「私は“SNS上で需要があるのに、供給量が足りていないコンテンツ”に注目していて、これを『コンテンツ不足のコンテンツ』と呼んでいます。それが当時はクイズ動画だったんです。これを特定の誰かを狙うのでなく、年齢も、性別も、興味がある分野も異なる様々な層に観てもらえるよう創って、視聴者をバラけさせ、幅広い読者層にランダムに当てていきました」
SNSのアルゴリズムが「この動画は面白い」と判断する理由を満載し、しかも、需要があるコンテンツを出せば、再生数は徐々に伸びていく。しかし、段ボールにも興味がなく、工場の近くに住んでもいないユーザーが喜ぶコンテンツを投げても企業の利益には結びつかないのでは?
「これはまず、大きな網をかけている状況なので、観てもらえる理由は単に『クイズが面白いから』でいいのです。これで動画を楽しみにしてくれるユーザーを多数獲得し、そこから地域や年齢などのデータを掛け合わせ、数多くの視聴者の中から採用候補者になり得る属性の方を絞り込んでいきます」
この「絞り込む」作業は、SNSのプラットフォーム(TikTok、YouTube、Instagramなど)が持つ「レコメンドエンジン」の仕組みを逆手に取った手法だ。
まずはクイズでファンを獲得し、次に採用候補者の属性(例:〇〇県在住の20代など)に喜ばれる動画を出す。すると、〇〇県在住の20代が、動画を見たり、いいねをしたり、反応を示すはずだ。すると、プラットフォームは「この動画は〇〇県在住の20代に好まれる」と判断し、同じ属性の人へ優先的に動画を届け始める。
さらに、どれくらいのファンがいるかも数値化する。例えば、段ボール工場のほかの動画が流れてきた時、離脱せず視聴し続ける、さらには企業サイトへのリンクをクリックしてくれる、といったアクションを起こす人がいれば、そのユーザーは段ボールの工場に好意を持つファンか判別できる。
こうして、「〇〇県在住の20代で、発信者に好意を持つファン」が増えた段階で、田中氏はようやく採用に結び付く動画を流した。具体的には、社内の様子をリアルに描いたショートドラマを投稿した。クイズを通じて既に会社に親近感を抱いている人たちへ、働く現場のリアルな空気感を伝え、同時に採用情報も流した。
「今までは、赤の他人に求人票を見せているような状態だったから、『ここで働きたい!』と思う人は少なかったのです。しかし、クイズの動画を入口にちょくちょく動画を観るようになり、地元の情報の動画などで親しみを感じていた企業が『働きやすい職場です!』というドラマと『一緒に働いてくれる方、大募集中です!』という情報を流したわけです」
これが刺さらないわけがない。その後、この工場の求人数は跳ね上がったという。
「この手法により、例えばホテルなら『観光業に興味がある地元の方』、研究開発が必要な企業は『特定の理系のジャンルに興味を持っている大学生』、運輸業なら『ドライバー経験がある若手で、転職に関する動画を観ている方』など、ご要望に応じた方々をご紹介できるようになります。もちろん、同じことがこの精度できる企業はほかにありません」
「ナンバーワンしか目指さない」田中氏が描く未来の設計図
田中氏は何でも自分の頭で考える人物だ。高校生の時にファッション関連の事業で起業し、集客のためTwitter(現X)を運用すると「どうすればもっと人に見てもらえるか」「SNSはどういう基準で、どんなコンテンツをユーザーに『お勧め』するのか」といったことに興味を持った。まだ「SNS運用」という言葉は一般的でなかった時代の話だ。
「その後、独学でSNSのアルゴリズムを分析すると、今度は誰かに伝えたくなったんです。当時は今ほどアルゴリズムが複雑ではありませんでしたが、それでも『誰に、何を、どう届けるか』という設計図が欠けているアカウントばかりだったので」
ところが彼は、同級生が大学に入学する年、全く別の挑戦を始める。料理だった。この分野も、勘や経験やセンスがモノを言うと思われがちだが、実際は「このタイミングでアミノ酸を焦がすと、いわゆる『香ばしい』匂いがする」といった科学で割り切れる部分が大きい。一度探求し始めると止まらない田中氏は、なんと、たった1年で留学先の並みいるシェフをうならせ、日本人最年少でミシュランレストランの料理人となった。
そんな彼が「また新たな挑戦を」と日本に帰ってきて、始めたのがSNS戦略の構築だった。
「この世界に戻ってきたのは、市場が爆発的に成長しているからです。どうせ何かをやるなら、激流の中に身を置きたかったんですね。
同時に私は今も『設計図が欠けたままだな』と感じました。企業から様々な依頼を引き受けるインフルエンサーの方は、コンテンツを作成・発信することには長けていますが、アルゴリズムの分析までできる方はほぼいません。発注側も、上のクイズの例ではありませんが、どんな網を仕掛け、どうやって網を狭めていくか、といった構想は描けない場合が多い。もったいないなぁ、と思うと同時に、私にとってはチャンスだと感じました」
次第に、彼の実力を知る人物が、各界の名士を紹介してくれるようになった。なかには政治家もいた。確かに求人の手法は選挙でも使えるはずで、実際、宮城県議会の選挙では、初出馬の無所属という非常に不利な状況から当選へと導いた。
うわさを聞きつけ、彼は20代にして並みいる国会議員を相手に議員会館でSNS活用の講義をい、早稲田大学、東北大学等でも講演、今はマーケティングや動画制作も自社で行うようになり、阪急阪神HDなど名だたる企業からの発注を受けている。
最後に、彼は今後の夢を語る。
「SNSは、僕にとってはあくまで入口に過ぎません。これから僕が目指すのは、あらゆるマーケティングツールを自社グループ内に網羅した『マーケティングホールディングス』を創り上げることです。
やるからには、中途半端な規模で終わるつもりはありません。常に目指すのはナンバーワンだけですから」
取材/文 夏目幸明
