「ア・プロ」――なぜAIの企業がニッポンの物流問題に立ち向かうのか?

彼らが物流業界の新星に? ポテンシャルプラス・高山辰夫執行役員がスリランカの職業訓練校を表敬訪問、民族舞踊で歓迎された時の様子。

人手不足の解消に意外な企業が名乗りを上げた。外国語のテストの採点、外国語学習に関するAIを開発する「ポテンシャルプラス」と、「ア・プロ」だ。運送業界にドライバーだけでなく倉庫作業員も送り込む事業計画を一気呵成に立案した同社執行役員の高山辰夫氏にビジネスモデルを聞いた。            

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外国語学習のAIで、日本で働く外国人人材を教育

 人手不足に揺れる運送業界から注目を集めているのは、AIの企業だった。

「ポテンシャルプラス」成長のきっかけは、英語のスピーキングテストの採点を請け負ったことだった。同社の登場まで、受験者が話した英語の録音データはフィリピンに送られ、数人で「60点」「いや、65点」と採点されていた。しかし同社のAIを使えば、あっという間に、人件費もかからず終えられる。時を置かず日本の大手教育会社等が続々と採用、しかしポテンシャルプラス取締役(当時)の高山辰夫氏は別のことを考えていた。

「2025年から、自動車運送業の分野でも『特定技能』を持つ外国人の方が受け入れられることになりましたが、運送業であれば伝票が読めなければ仕事になりません。また倉庫作業員も足りませんが、ここでもある程度の日本語能力は必要でしょう。
 ポテンシャルプラスのAIは外国語の教育も行えます。もちろん日本語も。ならば我々がインドネシアやスリランカで日本語教育を行い、人手不足が深刻化する日本の物流業界に送り込むビジネスができますよね。必要であれば、伝票を読み、入力する、といった業務フローを覚えてから来日してもらうこともできます。面白くないですか?」

語学教育システム『AISATS(アイサッツ)』https://potentialplus.co/ja/aisats/

人助けで見えた新たな道と「巨大なニーズ」

 高山氏は面白い経歴を持つ。海外の電気機器を日本国内で販売するセールスマンになって全世界トップの成績を収め、独立。その後、貿易会社にジョインし、スリランカやインドネシアの政府高官と知り合いになった。彼らは口を揃え「我が国の若い人材を日本で活用してもらえないか」と言う。

「働きに出る先として、今も日本の人気は高いんです。現地では『欧州より給与は低いが、物価も安いから母国に送れるお金は同程度、しかも同じ黄色人種だから差別を受けない』と言われています」

 日本にもニーズはあるはずだった。彼は仕事の合間を縫って、スリランカの関係省庁にヒアリングを重ね、大統領官邸も訪ね、ついにはスリランカの大臣を日本に招いて企業と接点をつくるべく奔走した。ほぼボランティアだった。

スリランカの国会会議中、sports and youth大臣の招待を受けた。写真中央が高山氏。

 そんな仕事をするなかで、彼はセールスの能力を買われ、ポテンシャルプラスの取締役も兼ねることになった。彼はすぐ「このAIを外国語教育だけに使うのはもったいない」と気づいた。

「すぐ「登録支援機関」になるべく法務省に申請を行いました。特定技能外国人を雇用する企業は外国人人材に対し、出入国の際の送迎、行政手続の支援、相談・苦情の対応などのサポートを行う義務があります。支援機関として登録されれば、これらをポテンシャルプラスが請け負うことができるんです」

 ドライバーの運転免許の取得も引き受けた。外国の免許を日本の免許に切り替える「外免切替」は、非常にハードルが高い。外国の免許証、その翻訳文など多数の書類を揃え、通訳を伴って免許センターを訪問し、知識や技能の確認を受ける。合格率は10~20%程度、これに落ちると再受験は数か月後。これではいつまで経っても働けない。

「我々は、1回目の外免切替で合格しなければ、教習所で日本の免許を取得するのが合理的だと考えました。実は日本の警察もこれを推奨しています。そこで全国で約160箇所以上の合宿教習所を紹介しているポータルサイト業者と提携を済ませ、教習所がスムーズに外国人を受け入れられるようにしました。 これで免許もほぼ100%取得できます」

 高山氏は次々とアイデアを出し、実現していった。不動産テックの企業や、外国人にも対応している保証会社と提携を結んだ。これで、クローズドマーケットで家具家電付きの賃貸住宅を調達し、多言語での契約やサポートも行えるようになった。電子マニュアルの会社とも連携した。日本語のマニュアルの写真を撮れば、AIが多言語に翻訳してくれる。さらに今は、ドライバーの技術をはかるシステムの導入にも動いている。

「安全運転をしているかどうか、AIで判定を行います。外国人ドライバーはやはり日本で稼げるようになりたい。そんな中、よくわからない基準で給与に差があったら、やる気をなくしたり、ドライバー同士で揉めるきっかけになりますからね」

インドネシア大使館教育文化担当官 Prof.ユスリ・ワルディアトノ氏を表敬訪問、インターシップについての意見交換を行った。

倉庫内作業を行う外国人人材も

 これが元世界NO.1セールスマンの真骨頂なのかと問うと、高山氏は「照れますが、そうですよ」と笑顔を見せ話を継ぐ。

「実は今、倉庫やホテルや飲食店で働く人材の供給も始めています。海外には物流や観光に関わる学校・学部が多数あり、その学生は、日本で1年間、インターンシップを行うと単位を取得できるんです。この学生たちを日本に招き、物流に関する学部の学生なら倉庫内作業や物流企業の業務を、観光に関する学部の学生ならホテルや飲食店で、1年間働いてもらうんです」

 今、人が足りない企業は『タイミー』などのバイトアプリで人を集めている。社員が毎朝、何十分もかけて作業工程を説明するが、“タイミーさん”は1日限りの付き合いだから、翌日も同じ説明をすることになる。一方、インターンシップの学生は給与こそタイミーさんと変わらないものの、多くは1年間働いてくれる。

「1年後に彼らの後輩が来たら、1週間くらい一緒に作業をして、先輩から後輩に仕事を教えてもらうんです。これで社員は毎朝のプレゼンから解放されます。作業に習熟してもらえば仕事の効率は劇的に上がりますよ。さらに、社員が足りなければ、留学生の中から優秀な学生を青田買いすればいいんです。現地の大学生は地頭がいいですよ。母国語と英語と日本語が話せる学生もたくさんいます。運送業者さんの中には、最初はインターンで倉庫内作業をしてもらい。免許がとれたらドライバーになってもらう、という順番で育成を考えているところもあります」

 その後、高山氏はこの人材に関する仕事を自分の仕事として「ア・プロ」を設立。ベトナムでは上場企業を3社が参加する『サオマイグループ』内の送り出し機関との包括業務提携を調整中、インドネシアでも現地最大の送り出し機関とのドライバーに関しての包括業務提携が進行中、スリランカでは現地で「特定技能試験実施者」を務める日本人が運営する日本語学校、人材を送り出す機関との協定も提携済み、という。

 壮大な計画の実現なるか。今後が楽しみだ。

 

入国後のアフターフォロー現場。日本人として、これら外国人人材の方々への感謝の念を忘れたくない。

取材/文・夏目幸明

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