NY発のライブアートイベント『ART BATTLE』。様々なアーティストが制限時間のなかでパフォーマンスを競い、観客の投票により勝者が決まるイベントだ。2019年、東京・天王洲の倉庫に全国の予選を勝ち抜いた12人の選りすぐりが集まり、わずか20分の制限時間のなかで筆を執った。MCが盛り上げ、観衆はアートが完成していくさまを目にする。そんな中、客席から「真っ白なキャンバスに、みるみる命が吹き込まれていく」と形容されるほどの躍動感を表現して優勝、プレゼンターのコシノ・ジュンコさんから、ファイトマネーと賞状を受け取ったのは「KATHMI」こと吉田佳寿美だった。(写真上)
出身は福岡で、7人兄妹の下から2番目。生活がままならないなか「不器用な父(KATHMI談)」がみずから建てた家で暮らした。いつしか、誰かがつくった「もの」から愛情を感じるようになったという。
「物心ついた時からです。ものの色が好きでした。様々なものたちの手触りも好きでした。自分が作ったものに家族が集まってくることも好きでした」
ものに「たち」と付け、擬人化するあたりが彼女らしい。そして思春期には早くも「お絵描き」の次元を超え始めた。
「運動会の時、競技の背景に40mほどある絵を描いたことを覚えてます。ほかにも作品を書き、ネットにアップすると、モバゲーさんやグリーさんからイラストの仕事をもらえるようになりました」

その後、九州産業大学芸術学部のデザイン科に学費免除で入学、そのエピソードは、才能は努力なく花開かないものだと示すかのようだ。
「画塾で1日3枚ほど絵を描いて、デッサンと平面構成を学んでいったんです。例えば円柱を描く時も、底面がこの角度なら柱はこの角度、とロジックがあるんですね。ほか、観る方に『この線はカーブですよ』とはっきり説明するために鉛筆を走らせているかとか、そんな基本を律儀に守った結果です」
企業の仕事を受けるため地元の大学を退学し、武蔵野美術大学の3年次に編入、その後、イラストの仕事をもらった時と同様に、様々な企業から執筆の依頼がきた。ソニー・デジタルエンタテインメント・サービスが世界初のVR専門のアート・ギャラリー「VR GALLERY by Sony Digital Entertainment」をローンチすると、VR空間に彼女の作品が展示された。ほか、Google、本田技研工業など錚々たる企業のイベントにも招かれ、いつしか武蔵野美術大学の教壇にも立つようになっていた。
しかし彼女はその後、また別の分野で成功を収めることになる。
「VR GALLERY by Sony Digital Entertainment」の作品『Love trip』
AIが登場した時、これを脅威と捉える同業者が多い中、彼女は手探りでAIを個別最適化してみた。彼女は特段、PCの技術に長けていたわけではなかったが、AIの使い方をネットで調べ、コツコツと自分の絵を深層学習させていくと――。
「次第にAIが、私が思うような絵を完成に近いところまでもっていってくれるようになったんです。もちろんすべて完成とは言えず、作品に魂を込めるような部分は自分自身でやっていますが」
漫画家で言えば、優秀なアシスタントが下絵を描き、作家は“一筆入魂”の部分だけに集中できる状況になり、彼女はこれまでの10倍のスピードで作品を完成させられるようになる。しかも彼女はAIを活用したアートでも、ワールドAIグランプリAI天使賞、第二回AIアートグランプリ佳作(審査員長/東大教授 河口洋一郎)など様々な賞を受賞していく。
「これまでは生活の中心が絵を描くことだったんですが、思わぬ形で空き時間ができ(笑)、これ以降、アーティストとしてできることを探し始めたんです」
例えば壁紙メーカーと提携し、彼女のアートが描かれた特注の壁紙をつくってもいい。オフィスやホテルのリノベーションを行う企業と組んでもいい。パソコンメーカーと組めば、AIで可能性が10倍に広がった人物として広告塔になることもできる。では彼女自身は何をやりたいのか? 彼女が笑って言う。
「それがわからないんです。だから私『Link X Journal』の取材を受けてみたいと思ったんです。いろんな企業の方に、私がお役に立てる場面をつくっていただけないかと思って……」
わからなくて当然かもしれない。古今東西、人類の歴史には永遠に語り継ぐべき画家がいるなか、彼女は歴史上初めて「AIがある時代に生まれ、AIを自由に操ることができる画家」になった人物なのだ。彼女が話す。
「何か作品を書いて対価を得る、というビジネスも悪くはありません。でも私がやりたいのは、例えばノートパソコンの天板や冷蔵庫の扉に私のAIアートがあって『世界に一台だけ』と販売するとか、世界に1枚のTシャツやマウスパッドとかそんな、今までにないものをつくることなんです。AIとデジタルプリントの技術があれば、今まで多くのアーティストが夢想してきた、世界をアートで満たすことも可能だと思うんですが――?」
読者の企業ではいかがだろうか。彼女は、何かピンとくるものがあれば連絡がほしい、と話す。
※当サイトのお問い合わせページにご連絡いただけば、編集長・夏目が責任を持ってKATHMIさんに伝えます。
