「ポテンシャルプラス」――ニッポンの物流問題に「海外発AIを利用した教育事業」で立ち向かう

彼らが物流業界の新星に? ポテンシャルプラス・高山辰夫執行役員がスリランカの職業訓練校を表敬訪問、民族舞踊で歓迎された時の様子。

人手不足の解消に意外な企業が名乗りを上げた。外国語学習のAIを開発する「ポテンシャルプラス」だ。運送業界、ホテル、小売り、さらには倉庫作業まで対応する壮大な事業計画を一気呵成に立案した同社執行役員の高山辰夫氏にビジネスモデルを聞いた。※青いマーカーの部分だけ読めばビジネスモデルがわかります。             

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なぜ宅配便ドライバーに外国人はいない?

 日本の物流業界は、通販市場の拡大、ドライバーの高齢化により「荷物の総量の30%が運べなくなる」とさえ言われる苦境にある。しかし素人としては疑問も感じる。コンビニや飲食店では働く外国人の姿を見るのに、通販の荷物を届けてくれるドライバーさんやバスの運転手さんは、ほぼ日本人ではないか?

「そこが2025年から変わります。自動車運送業分野でも『特定技能』を持つ外国人の方が受け入れられることになったんです」(ポテンシャルプラス・高山氏)

 「特定技能」は、外国人が日本に滞在するのに必要な在留資格の1つ。人手不足に悩む、介護、宿泊、農業、外食業など十数の産業分野で働き手となる外国人の方に付与するため、2019年4月に創設された。そして2024年3月、これに4つの産業分野が追加されることが決まった。「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」だ。運送業の苦境を鑑みれば、妥当な政策と言えるだろう。

 だからといって、外国人の方がすぐ宅配便のドライバーさんや電車やバスの運転士さんになれるわけではない。

「ドライバーさんの育成には高度な教育が必要になります。日本語能力はもちろん、日本の交通ルールを理解し、日本の免許を取得してくれなければ戦力になりません。さらに伝票を読み、入力し、時にはお客様対応できるだけの業務フローも覚えることになります。農業や林業など体を動かす職業に比較すると、高度な教育が必要になるのです」(高山氏)

 ポテンシャルプラスは、ここを解決するという。

スリランカで歓待を受ける高山氏(写真中央)。

人助けで見えた新たな道と「巨大なニーズ」

 執行役員・高山氏は経歴が面白い。海外の電気機器を日本国内で販売するセールスマンになり、全世界トップの成績を収めた。その後、独立して広告に携わる仕事をしてきたが、これに収まる器ではなかった。

「私、世界で初めてのことをやりたいんです。道なき道を切り開くチャレンジをしている時に『面白い!』と感じる人間なんですね」(高山氏)

「何かやりたい」と思い続けた人間だけが、たまにその何かを見つける。数年前、貿易会社にジョインすると、スリランカ政府の高官と知り合い「日本でもっとスリランカの人材を活用してもらえないか?」と言われた。のちの話になるが、ミャンマーやインドネシアでも同じ声を聞いた。日本と違って若者が多く、働きに出る先として、今も日本の人気は高い。現地では「欧州より給与は低いが、物価も安いから母国に送れるお金は同程度、しかも同じ黄色人種だから差別を受けない」と言われているのだ。日本にもニーズはあるはずだった。彼はスリランカの関係省庁にヒアリングを重ね、大統領官邸も訪ね、ついにはスリランカの大臣を日本に招いて企業と接点をつくるべく奔走した。

スリランカの国会会議中、sports and youth大臣の招待を受けた。写真中央が高山氏。

 高山氏は「最初はほぼボランティアでした」と苦笑する。しかし彼の経験が、電気の+と-が出会ってスパークするかのようにはじけた。

 きっかけは「ポテンシャルプラス」社から営業を手伝ってほしいと依頼されたことだった。教育事業の会社で、同社代表のTONKS Basil(トンクス バジル)氏は1992年以来、アジア圏で教育関連製品の研究、開発、販売に携わってきた人物。会長の武藤嘉嗣氏は、全米で人気を博す子ども向けデジタル教育教材『Age of Learning』のエグゼクティブを務めた(詳細は、https://potentialplus.co/ja/about-jp/)。彼らは元Microsoft社のAIエンジニアが立ち上げたテックベンチャーのスピーキング判定エンジンに独自のアレンジを加えて画期的な語学教育システムを開発、そのセールスを高山氏に依頼したいと言う。

「ポテンシャルプラスが開発したのは『AISATS(アイサッツ)』というシステムです。語学力の中でも『読む』『書く』は比較的容易に評価できますが、イントネーションや発音の評価は難しい。中高生の多くが受けるメジャーなテストでも、スピーキングの内容を録画し、フィリピンに送り、現地の方々が評価しています。一方『AISATS』は、AIが動画を解析して評価を行うため、低コスト、かつ驚くべきスピードで判定ができます」(高山氏)

 通信教育大手や英語試験の運営母体が次々、このシステムを採用した。しかし元世界NO.1セールスマンの高山氏には別の未来が見えた。ポテンシャルプラス社は英語テストの判定システムだけではなく、eラーニング=ネットや動画を使った日本語教育もできる。ならば、来日する外国人に日本語教育を行えるはずだ。仮に日本の運送業界で働くなら、荷積・荷下ろし・伝票入力まで動画で学んでもらうこともできる。日本のホテルや飲食業で働くなら、来日前に接客マニュアルや業務フローを学んでもらってもいい。そこには巨大なニーズがあるはずだ。

母国にいるうちに日本語教育から伝票入力まで

 高山氏はビジネスモデルを構築していった。その中で、勝機があると直感した。

「今までの紹介機関は紹介料を取りすぎているんですよ。しかも毎月の管理費は取るのに外国人人材のアフターフォローを全くしていない機関も多いんです」(高山氏)

 彼はこの過程で、顧客企業のリスクを排除できると思いついた。

「外国人を採用する際には高額な初期費用がかかります。入国申請のためのビザの取得や、母国の政府やエージェントへの謝礼金だけでも50万円程度の大金が必要です。なのにすぐ退職されてしまったら企業は損害を被りますよね。そこで我々は初期費用をいただないサブスクモデルにしました」(高山氏)

 それはポテンシャルプラスが損害を被るだけなのでは?

「いえ、外国人人材と、会社を辞めたら次の会社も私たちを経由して探す契約を結べばいいんです。退職したがっている人材を無理に引き留めることはできません。しかし我々にすれば、1社目に勤めていた外国人が2社目に転職した、ということになるため、損はしないんです」

 同時に「登録支援機関」になるべく法務省に申請を行った。特定技能外国人を雇用する企業は外国人人材に対し、出入国の際の送迎、行政手続の支援、相談・苦情の対応などのサポートを行う義務がある。支援機関として登録されれば、これらをポテンシャルプラスが請け負うことができるのだ。さらに高山氏は、不動産テックの企業や、外国人にも対応している保証会社とも提携を結んだ。これで、クローズドマーケットで家具家電付きの賃貸住宅を調達し、多言語での契約やサポートも行えるようになった。

 驚くべきことに、ドライバーの運転免許の取得も引き受けた。外国の免許を日本の免許に切り替える「外免切替」は、非常にハードルが高い。外国の免許証、その翻訳文など多数の書類を揃え、通訳を伴って免許センターを訪問し、知識や技能の確認を受ける。合格率は10~20%程度、これに落ちると再受験は数か月後。これではいつまで経っても働けない。

「そこで我々は、1回目の外免切替で合格しなければ、教習所で日本の免許を取得するのが合理的だと考えました。実は日本の警察もこれを推奨しています。そこで我々は全国で約160箇所以上の合宿教習所を紹介しているポータルサイト業者と提携を済ませ、教習所がスムーズに外国人を受け入れられるようにしました。 これで免許も100%取得できるます。

 運送会社にとって、免許取得費用と、免許を取得する期間の給与はコストになります。しかし事故や違反が多いと、最悪、運送事業の許可を取り消されてしまうので、ドライバーが日本の教習所に通って安全意識を養うメリットも大きいんですよ」(高山氏)

 高山氏が持っている武器は、日本に若者を送り込みたい国の政府や大学の幹部と太いパイプを持つこと、あとはAIを使った教育システムを持っていること。だが彼はこれに甘んじず、免許のこと、住居のことまでクリアにして、一気呵成に人材の供給チェーンを作り上げたのだ。

インドネシア大使館教育文化担当官 Prof.ユスリ・ワルディアトノ氏を表敬訪問、インターシップについての意見交換を行った。

外国人人材もドライバーになりたがる「理由

 これが元世界NO.1セールスマンの真骨頂なのかと問うと、高山氏は「照れますが、そうですよ」と笑顔を見せ話を継ぐ。

「実は今、倉庫やホテルや飲食店で働く人材の供給も始めています。海外には物流や観光に関わる学校・学部が多数あり、その学生は、日本で1年間、インターンシップを行うと単位を取得できるんです。この学生たちを日本に招き、物流に関する学部の学生なら倉庫内作業~物流企業の業務を、観光に関する学部の学生ならホテルや飲食店で、1年間働いてもらうんです」

 今、人が足りない企業は『タイミー』などのバイトアプリで人を集めている。社員が毎朝、何十分もかけて作業工程を説明するが、“タイミーさん”は1日限りの付き合いだから、翌日も同じ説明をすることになる。一方、インターンシップの学生は給与こそタイミーさんと変わらないものの、途中で辞めず、多くは1年間働いてくれる。

「1年後に彼らの後輩が来たら、1週間くらい一緒に作業をして、先輩から後輩に仕事を教えてもらうんです。これで社員は毎朝のプレゼンから解放されます。作業に習熟してもらえば仕事の効率は劇的に上がりますよ。さらに、社員が足りなければ、留学生の中から優秀な学生を青田買いすればいいんです。現地の大学生は地頭がいいですよ。母国語と英語と日本語が話せる学生もたくさんいます。運送業者さんの中には、最初はインターンで倉庫内作業をしてもらい。免許がとれたらドライバーになってもらう、という順番で育成を考えているところもあります

 最後、彼に「それは世界で初めてのことですか?」と聞くと、彼は「現段階でインドネシアやミャンマーやスリランカの政府や大学と私たち以上にコネクションを持って、人材供給の上流から下流まで抑えている企業はない……はずです」と笑う。

 高山氏いわく、2024年末、ベトナムでは上場企業を3社が参加する『サオマイグループ』内の送り出し機関との包括業務提携を調整中、インドネシアでも現地最大の送り出し機関とのドライバーに関しての包括業務提携が進行中、スリランカでは現地で「特定技能試験実施者」を務める日本人が運営する日本語学校と、人材を送り出す機関との協定も提携済み、とのこと。

 壮大な計画の実現なるか。今後が楽しみだ。

入国後のアフターフォロー現場。日本人として、これら外国人人材の方々への感謝の念を忘れたくない。

取材/文・夏目幸明

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