人財育成に力を入れている企業を取材した。広島に本社を構える株式会社ハイエレコンだ。顧客企業の会計、人事、在庫管理など様々なシステムを作る「システムインテグレーター(SIer/エスアイアー)」だが、特筆すべきは同社が若手をプロフェッショナルとして育成し、若手に自由な発想で新しい事にチャレンジさせていることだ。2人の若手社員を取材し、その手法をまとめた。
若手が「お客様の課題を理解し、提案できるSE」へ
顧客企業のシステム構築は、決して言われたものを作ればいいわけではない。顧客の困りごとを聞き、顧客に「こういうものをつくって」と言われた際、時には「この方がいいですよ」と提案する場合もある。さらに「こんなことができるようになりました。貴社のシステムにいかがですか?」と提案する場面も多い。
すなわち「プロフェッショナル」と呼べる人材がどれだけいるかが、企業の成長の源泉となるのだ。
そんな中、ハイエレコンは1982年の創業以来、39期連続の経常黒字を達成、顧客もNTTグループや日立グループといった大手企業に加え、地方自治体、教育機関、地元の企業がある。そこで、同社がどのような人材育成を行っているかを取材すると、いくつかのポイントが見えてきた。
最初のポイントは「自律的な学習環境づくり」だ。
同社に入社すると、社会人マナーやプログラミングの基礎を学び、現場配属後は、新入社員1名に対して先輩社員が1名つくマンツーマンのOJT教育がスタートする。
と同時に「個の自律的成長」が促されるのだ。
具体的には、業務に繋がるスキル習得や、新技術等のために研修参加の希望を出し、承認されると研修が受講できる。自分が新しい価値を提供するために、自分が何をすべきかを考える。これにより、社員はいきなり「あらかじめ用意されたレールを歩むのでなく、自分の課題感に基づいて動いていいよ」というメッセージを受け取ることになる。
営業部の若手男性社員が、当時の心境をこう振り返る。
「最初は『右も左もわからないのに自分から新しい事へチャレンジしていいのか?』と戸惑いました。でも先輩がマンツーマンで基礎を固めてくれる安心感があったからこそ、『もっとお客様の役に立つには何を学べばいいか』と、自然と前のめりになれたんです。会社から押し付けられた、仕事をこなすだけだったら、また違ったかもしれません」

取材に対応してくれた若手男性社員。笑顔が眩しいぜ。
今はエンジニアとして活躍する若手女性社員が話す。
「当初は不安もありましたが、会社が『まずは自分の興味のある分野から深掘りしていいよ』と裁量を与えてくれたため、自分のペースで知識を広げていくことができ、次第に現場で活かせる知識を自ら取りに行く楽しさに気づけたんです」
次のポイントは「越境」だ。
IT企業の営業部門と開発(システム)部門の間に見えない壁が存在することは珍しくない。営業が顧客の要望を安易に引き受け、開発現場が悲鳴を上げる、あるいはエンジニアが技術的な正論のみを主張し、顧客のビジネスに寄り添えない……といった摩擦は慢性的な課題と言っていい。
この問題に対し、ハイエレコンが導き出した答えは極めて単純だ。双方が、双方の考え方や望むものを絶えず交換し続けるのだ。例えば、営業とシステムが連携して提案する。何か問題があれば双方が協力して全力で対応すると、若手女性エンジニアが話す。
「私が当社に興味を持ったのは、SIerとしてお客様と話す環境が多くあるからでした。実際に入社後、数多くの案件で顧客企業を訪れ、システムが運用されている現場を見させていただき、同時に様々な営業の研修にも参加しました、すると、『お客様が言葉にする要望』と『現場が本当に抱えている課題』は必ずしもイコールでなく、これをどう解決していくべきかが見えるようになってきたのです」
一方、同社の営業部の若手は、エンジニアとのチーム連携において「一人よがり(営業目線)にならないこと」を意識しているという 。顧客の要望を叶えたい営業の心理と、実際に形にするエンジニアの技術的制約のバランスを取ることは容易ではないという。だからこそ彼は、システムの現実も理解せねばと心掛けているのだ。
「お客様の『これが欲しい』をそのまま開発に投げるだけなら、営業の存在意義はありません。エンジニアがどんな技術的制約の中で戦っているのかを知ることで、お客様への提案も『ただの御用聞き』から『実現可能性の高いソリューション』へと変わりました。開発現場との率直な対話が、私の営業としての解像度を上げてくれたんです」

若手の「挑戦」を受け止める組織風土
次のポイントは、「当事者意識の醸成」だ。
多くの経営者が、社員の熱意をいかに事業の推進力に変えていくか頭を悩ませている。仮に何か提案があったとしよう。リスクを恐れ、前例踏襲の定型業務に終始させたらやる気をそいでしまう。逆にただ「やってみなよ」と放任するだけでは、若手の成長機会を奪ってしまう。
そこでハイエレコンは、若手の挑戦を受け止めつつ、それを具体的なビジネスへと昇華させる伴走体制を築くことにした。
象徴的な事例が、若手営業マンの挑戦だ。彼は入社2年目の時、ハイエレコンが未開拓だったAI関連事業を始めたいと名乗りを上げた。
周囲は、まさか「2年目の若手が!?」とか「誰もやったことのない商材が売れるのか?」といったことは言わなかった。だが、彼に何度も詳細なプレゼンテーションを求めた。彼が振り返る。
「やりたいことが否定されているのでなく、上司が私のプランの練り切れていない部分を指摘し、解像度を上げてくれる、イメージです。当然、質問は鋭く『失敗した際のリスクヘッジはどうするのか』『なぜこの価格なのか』といった経営視点からの指摘が次々なされました。今思えば、何度も資料を練り直し、経営陣の視点を疑似体験できたことによって自分自身が成長できた実感がありますね」
彼の奮闘の甲斐あって、GOサインが出た。すると彼はすぐ学校関係者のクライアントへAIチャットボットの導入提案を行い、見事受注を獲得。次にこの実績をベースに製造業など他業種への横展開を進め、ついにはエンジニアと協働してハイエレコン独自の新しいAIサービスの開発・企画として成長軌道に乗せるまでになった。
また前出の若手女性エンジニアも新規性が高い仕事を始めたと言う。社内の業務効率化を目指して立ち上がった「AI活用検証チーム」のサブリーダーを務め、どの仕事にどのような形でAIを活用するとどのような効果があるのか、日々試行錯誤を続けている。彼女が話す。
「新しい技術をただお客様に売り込むのではなく、まずは自分たちの業務で使って失敗も成功も経験しておけば、お客様の課題に対してより的確な提案ができると思っています」

話を聞かせてくれた若手女性社員。
筆者の感想を許してほしい。若手の後押しを促す有名な言葉がある。サントリーの創業者・鳥井信治郎の口癖、「やってみなはれ」だ。しかし、このセリフとセットになっている言葉はあまり知られていない。それは「みとくんなはれ」という。やってみなはれと言われた側は、「必ず結果をお見せしますよ」「やり切りますよ」「時には質問もしますよ」といった意味で「みとくんなはれ」で応えるべし、という文化だ。
この「やってみなはれ/みとくんなはれ」が機能している会社は、サントリー同様、しかるべき時期にしかるべき新事業を始める人間が現れ、結果、時代の波を乗り越えていく、というわけだ。
最後のポイントは「公正な評価」
若手に裁量を与え、成長機会を提供しても、その努力や成果が正当に評価されなければ優秀な人材はたちまち組織を去ってしまう。
同社はこのリスクに対応するため、2020年4月に新評価制度を導入した。その内容が面白い。まず、業務遂行のプロセスにおける行動の実践度を10項目あげ、それぞれ4段階で判定する「行動評価」と、達成した成果、組織への貢献度を50点満点で採点する「業績評価」の二軸を併用しているのだ。
考えてみればよくできた仕組みだ。結果だけで評価をすれば、なりふり構わぬ成果主義に陥る。かといって結果がでなければ社業をおろそかにすることにもなりかねない。
さらにこの制度が優れているのは「事実評価」や「平等の原則」を徹底している点だ。過去の業績、年齢、経歴、勤務時間外の行動などに一切とらわれず、評価対象期間の職務遂行の事実のみに基づいて判定される。評価のプロセスも、上司との面談を経て課長、部長による2段階の評定を行い、最終的に上司から本人へ評価根拠を含めたフィードバックを行うという徹底ぶりだ。上司と部下が業績向上のためにディスカッションを行う「自己成長ツール」として機能させることで、不公平感を払拭している。
――と、このような制度を整えれば結果が出るのは当然だ。2020年度以降、同社の離職率は5%以下。厚生労働省が発表する全国平均(約15%)を大きく下回る驚異的な数字だ。そして、同社に長くいる人材が経営陣になって、このエコシステムが繰り返されていく。
イノベーションを追求するスタートアップにとって、組織の拡大と次世代リーダーの育成は常に難しい問題だろう。スピードを重視するあまり人材育成が後手に回ったり、属人的なマネジメントによって組織が疲弊したりするケースは枚挙にいとまがない。
今回見たハイエレコンの組織マネジメントは、こうした課題に対する解を明確に示しているのではないか。

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